高スピン核分光

多重ガンマ線検出器''GEMINI''を用いて、原子核の高励起・高スピン状態の研究を行なっています。高励起・高スピン状態では、異常な変形をした り、ハサミ型の振動をすることが知られています。理論的予言では、洋梨型及び葉巻型変形状態における新しいハサミ型振動等も予言されています。

これまで原研では、143Gdで異常な変形状態があることや、155Gdが高スピン状態で Tilted Axis Rotation(傾斜回転)していることを見出してきました。

質量数180領域原子核の核構造研究


質量数180領域原子核の核構造研究では、核異性体(比較的長い寿命をもつ核の励起状態)の生成、崩壊メカニズムを明らかにするため、実験的研究を進めて います。この領域の核異性体は、K量子数(全スピンの原子核の対称軸射影成分)に関する遷移則にしたがって崩壊することから、K核異性体と呼ばれていま す。

近年、K核異性体の崩壊において、系統性から大きくずれた遷移が見つかってきました。これらの遷移は、通常の遷移に比べて、10^6から10^8倍 もガンマ線強度が強いことがわかりました。そこで、量子トンネル効果を取り入れた模型による遷移確率の分析を行ないました。この模型では、2つの状態を変 形パラメータで区別し、トンネル効果による障壁透過によって、波動関数が混合すると仮定し(下図参照)、ガンマ線の遷移確率の計算を行ないます。解析の結 果、観測値と計算値の非常によい一致を得ることができ、量子トンネリングにより、K核異性体の異常崩壊を明らかにすることができました。


図 β-γ座標系でのK核異性体と基底状態回転帯(左)。横軸にガンマ変形をとった時のポテンシャル概念図(右)

参考文献はこちら