中性子ビームを用いた非破壊元素分析法には、試料から放出される電磁波のエネルギーを用いる方法(即発ガンマ線分析法:PGA)と中性子のエネルギーを用いる手法(中性子共鳴捕獲分析法:NRCA)があります。どちらの手法も試料を壊さずに元素の含有量を求めることが出来ますが、試料の成分と目的とする元素によってはどちらの手法でも分析が困難となる場合がありました。
原子力センシング研究グループでは、大強度陽子加速器施設(J-PARC)の物質・生命科学実験施設(MLF)に設置した中性子核反応測定装置(ANNRI)で利用できる世界最高強度のパルス中性子を用いる事により2つの非破壊元素分析法を融合した新しい分析法:飛行時間型即発ガンマ線分析法(TOF-PGA)の開発に成功しました。
TOF-PGA法は、その2つの手法を同時に行うことによって、それらを融合した分析手法であり、融合による相乗効果によって、どちらの手法を用いても分析が困難である元素を正確に非破壊で分析することが出来ます。
TOF-PGA法は原子力分野に限らず、宇宙化学、考古学、地質学、環境などの分野における試料(例えば隕石、土器、金属器、深海試料など)に有効であると考えています。それらの試料は、非常に沢山の元素を含み、非破壊元素分析が望まれる重要で貴重なものや再取得が困難なものが多く存在します。これらの試料を従来法で測定した場合には、今回の実験におけるCoのようにエネルギーが重なってしまい分析が困難となる元素が出てきますが、開発した分析法を使用すれば、それらの正確な分析が可能となり、その情報をもとにした研究の進展が期待されます。