中性子を使った非破壊分析は、核燃料に含まれる核物質の識別やその量の測定、隠された 核物質の検知に役立つと期待されています。こうした非破壊分析の1つに中性子共鳴透過 分析法があります。この手法は、中性子を測定試料に照射し、試料から通り抜けてきた 中性子を捉えることで、試料に含まれる核物質の種類や量を調べることができます。 しかし、これまで使われてきた中性子共鳴透過分析装置は、加速器などを用いて中性子を 発生させていたため大型となり、大量の放射線を周囲に放出していました。そのため、装置を 設置するには広いスペースが必要となり、放射線に対する厳重な遮蔽対策も求められていました。
そこで本研究では、中性子共鳴透過分析装置をより小型にして、使いやすくすることを目指 しています。具体的には、指先ほどの大きさのカリフォルニウム252($^{252}$Cf)という 中性子源を使い、核物質を検知できる卓上サイズの中性子共鳴透過分析装置を開発しています。 図1は、本研究で開発している装置の写真を示しています。この装置のサイズは、高さ50 cm、 幅50 cm、長さ130 cmで、これまでの中性子共鳴透過分析装置と比べると、格段にコンパク トになっています。また、$^{252}$Cf中性子源を利用することで、分厚い遮蔽を備える必要が ありません。
図2はこの装置での測定の仕組みを示したものです。測定の流れは次のようになっています。
- まず、$^{252}$Cf中性子源からでる中性子を測定試料に照射します。
- 試料の中に核物質が含まれていると、ある特定のエネルギーをもつ中性子が核物質と「共鳴」反応を起こします。
- 共鳴を起こした中性子は、試料の後ろにある検出器に届かなくなります。
- その結果、検出器で観測される中性子のうち、特定のエネルギーの中性子の数が減り、中性子の透過率に「へこみ」が現れます。
- このへこみの位置を見ることで、試料に含まれる核物質の種類を識別できます。
図3は、実際に開発している装置を使って行った測定の結果です。この装置では、中性子が 放出されてから検出器に届くまでの時間を計り、中性子のエネルギーを決定します。こうして 核物質を模擬した試料に含まれる同位体を検知することに成功しました。