福島第一原子力発電所では、原子炉から取り出される燃料デブリや回収物の中に、どれくらいの核物質が含まれているかを正確に把握することが、回収後の保管や管理において重要な課題となっています。特に、回収物は、核燃料が多く含まれるデブリから、微量の燃料が付着した構造材まで、多岐にわたるため、これらを核物質量に応じて分類できれば、廃炉作業の効率化などにつながります。
こうした回収物に含まれる核物質の非破壊測定には、試料に中性子を照射して核分裂反応を引き起こし、発生した核分裂中性子量から核物質量を求めるアクティブ中性子法が有効です。しかし、燃料デブリには原子炉制御棒に由来する中性子吸収材が含まれるため、アクティブ中性子法の適用が難しく(図1)、最も測定が困難な核物質の一つであると考えられています。
そこで私たちは、中性子吸収材による影響を受けにくく、核物質とは反応を起こす高速中性子に着目し、これを利用する新たな手法を考案しました。具体的には、非常に高速に動作する中性子検出器を複数台配置し、高速中性子による核分裂反応によって同時に放出される複数個の核分裂中性子を測定する方法です(図2)。実証実験では、核分裂中性子成分だけを取り出すことに成功し、従来のアクティブ中性子法では測定が困難とされていた中性子吸収材を含む核物質の非破壊測定を実現しました。この手法は、高速中性子を用いて核分裂反応を誘起し、その際に放出される中性子を同時計数するという原理に基づくことから、「高速核分裂中性子同時計数法(Fast Fission neutron Coincidence Counting: FFCC)」と名付けました。
本研究の成果は福島第一原子力発電所における燃料デブリ中の核物質量測定だけでなく、核セキュリティ上、重要な隠匿された核物質の検知への応用も期待されます。今後は、現場での運用を想定した試験・検討を実施し、早期の実用化を目指します。