雷や雷雲での高エネルギー大気現象に迫る

研究背景

雷は、強い光や大きな音、電波をともなう自然現象としてよく知られています。 しかし近年の観測により、雷からは、「放射線」も生じていることが明らかになっています。

これまでの観測により、雷が100万電子ボルト(1MeV)を超える高エネルギー放射線を発することが確認されています。 雷や雷雲の内部には強い電場が存在し、この電場が医療用X線発生装置のように電子を加速し、放射線を生み出していると考えられています。 ただし、大気はX線発生装置よりも約10億倍(109倍)以上も高密度であり、その中で電子を高エネルギーにまで加速することは容易ではありません。 また、雷の予測は難しく、放射線を捉えること自体が簡単ではありません。 そのため、「雷はどのようにして高エネルギー放射線をはなつのか」、「加速された電子は雷の発生そのものに関与しているのか」といった重要な疑問は依然として解明されていません。

冬の雷を活用した観測

この謎の解明に向けて、私たちのグループでは東京大学、理化学研究所、大阪大学などと連携して、日本海沿岸地域での観測を実施しています。 日本海沿岸は、冬に雷が頻発する地域として知られており、雷や雷雲からの放射線を調べる上で絶好の場所です。

ただ、雷の発生は予測が難しいため、放射線の観測には無人で長期にわたり連続して動作できる装置が必要です。 そこで研究グループでは、名刺サイズの小型パソコン(Raspberry Pi)を搭載して、屋外の過酷な環境でも自動で稼働する放射線観測システムを開発しました(図1)。 そして、2016年に開発した装置を観測拠点の1つである新潟県の柏崎刈羽原子力発電所に設置しました(図2)。

雷が引き起こす光核反応の発見

2017年2月に、設置装置から1 kmほど離れた地点で雷が発生し、放射線が検出されました。 データ解析の結果、特異なエネルギースペクトルや、雷の発生から数十秒後に増加する放射線が確認され、これまでの事例とは異なる特徴が見られました。

シミュレーションを含む詳細な解析により、この現象は図3に示すようなプロセスで説明できることがわかりました。

  • 雷の電場で加速された電子が、空気中の原子核と相互作用し、制動放射線が発生します。
  • 発生した制動放射線が、空気中の窒素14や酸素16の原子核に衝突し、光核反応を引き起こします。
  • 光核反応により生じた中性子は、減速しながら大気中を飛行し、最終的には窒素や酸素の原子核に吸収されます。このとき、中性子を吸収した原子核は即発ガンマ線を放出します。
  • 同時に、窒素の光核反応により放射性同位体である窒素13も作られます。窒素13は約10分の半減期でベータプラス崩壊し、陽電子(電子の反物質)を放出します。
  • 陽電子が、空気中の電子と衝突・対消滅して、0.51 MeVのガンマ線を発生させます。

私たちの装置では、窒素からの即発ガンマ線と0.51 MeVの対消滅線の両方を捉えることに成功しました。 特異なエネルギースペクトルの正体は即発ガンマ線、雷の発生から遅れて観測された放射線の増加は、陽電子の対消滅線に由来するものでした。 この研究により、雷が核反応を引き起こしていることが初めて実証され、雷の新たな側面が明らかになりました。

図1: 放射線観測システム
図1: 放射線観測システム
図2: 柏崎刈羽原子力発電所における放射線観測システムの設置場所
図2: 柏崎刈羽原子力発電所における放射線観測システムの設置場所
図3: 雷が引き起こす光核反応
図3: 雷が引き起こす光核反応

詳しい研究成果につきましては、以下の論文をご覧ください。